■死ぬかと思った ■罠にはまった ■胸にこたえた ■腹がよじれた ■寝るかと思った

恩田 陸の書庫


ベストセラー

「空は煮え切らない男の口調のように重い。そして、空のところどころには、煮え切らない男に対してくすぶっている女の不満のような。いらいらしたどす黒い雲が滲んでいた。」一月の裏側より一
恩田氏の生み出す独特の空気感と独特の表現力が好きだ。彼女の手にかかると恐怖さえも美しい。

涙を飲んで選ぶオススメの一冊
月の裏側

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恩田陸 ネジの回転 FEBRUARY MOMENT
初版10.Dec.'02/集英社/装幀:松田行正/'03年読
恩田陸の立ち読み

一九三六年二月二十六日午前四時。降りしきる雪と兵士たちの軍靴の音の中、安藤は胸元からそっとぴりおど(懐中連絡機)を取り出して思う・・・俺は銃殺されたはずだ。
近未来、時間遡航による歴史改竄がもたらした人類存亡の危機を救うべく、国連は歴史再検証に乗り出した。そして未来を大きく変えた転換点のひとつとして選ばれたのが日本の二・二六事件だった。時代に潜入して謎につつまれたこの不可解な事件を辿る国連スタッフたち。悔恨と悲願をひた隠しに死へと向かう道のりを再びなぞる青年将校たち。そして、度重なる歴史にはないはずのエラー・・・「不一致。再生を中断せよ。」「不一致。再生を中断せよ。」
時代のうねりの中で翻弄される過去と未来の人間たちが見つめる歴史とは?そもそも彼らが共有する時間とは過去なのか?
二・二六事件とタイムパラドックスを絶妙な筆致でまとめあげた恩田ワールドに呑み込まれ、続けざまに三度読み返したが、詰まるところ、仕掛けやアイデアではなく、真摯に国の将来を憂れい歴史を変えようとした青年たちを描きたかったのだと思う。人気や懐ばかりを憂れう現代の政治家さんたちに読んで欲しい一冊だ。
結末がもの足りないといった書評も多く見かけたが、爽やかなパラドックスでまとめられたラストは個人的には好きだったし、恩田氏自身、これ以上の歴史への介入は避けたのかもしれない。ほんの近くで蒲生邸事件が同時進行していたのだと想像しながら読んでみるのも、また楽しかった。


劫尽童女 (こうじんどうじょ)
初版10.Dec.'02/光文社文庫(Apr.'02 光文社刊)/'05年読
恩田陸の立ち読み

父、伊勢崎博士の手により超能力少女となったルカと、これまた特殊能力を備えた犬アレキサンダーが、秘密組織ZOOと戦う!
おやおや、これはまるでS.キングの『炎の少女チャーリー(ファイアスターター)』じゃないの♪・・・と読み終えたら、あとがきにしっかり「『ファイアスターター』プラス七十年代SFを念頭に置いた……」と書いてあった。アレキサンダーについてはD.クーンツの『ウォッチャーズ』を彷佛とさせる。キング、クーンツファンの私には嬉しい一冊だった。エンタテインメントとして気軽に楽しめるし、そこはかとなく懐かしいタッチも嬉しい。
願わくばもっと膨らませて、もっと掘り下げて、もっと読みごたえのある一冊に・・・と恩田氏の力量を知るファンならばついつい欲張りになってしまうが、考えてみると、このもの足りないほど軽やかなテンポこそが七十年代SFの持ち味なのだ。恩田氏は、この辺りを楽しみながら書いたのかもしれない。氏の遊びであり、息抜きであったかもしれないと思うと、ひそかにウフフと笑っている顔が思い浮かぶ。
それでもやっぱり注文をひとつ。 アレキサンダーには、もっともっと活躍を見せてもらいたかった。


図書室の海(短編集)
初版Feb.'02/新潮社/'06年読
 

恩田陸氏のファンにとっては短編集と言うより他にお楽しみがたくさん詰まっている。私は「イサオ・オサリヴァンを捜して」「睡蓮」「オデュッセイア」が特に好きだった。

春よ、こい井上雅彦氏監修「異形コレクション」シリーズの『時間怪談(廣済堂出版社 '1999)』というテーマのために書かれた。タイトルはユーミンの曲から。
茶色の小壜津山泰水氏監修『血の12幻想(エニックス刊 '2000年)』のために書かれた。タイトルはアメリカのフォークソングから。
イサオ・オサリヴァンを捜してSFオンライン(1998年10月26日号)」のために書かれた。大長篇SF『グリーンスリーブス』の予告編。
睡蓮女性をテーマにした『密の眠り(廣済堂出版社 '2000)』のために書かれた。『麦の海に沈む果実(講談社)』に登場する水野理瀬の幼年時代。
ある映画の記録密室をテーマにしたアンソロジー『大密室(新潮社刊 '1999)』のために書かれた半ば実話の1作。
ピクニックの準備書下ろし大長篇『夜のピクニック』の予告編。
国境の南週間小説(2000年8月25日号)のホラー短編として書かれた。タイトルはラテンのスタンダードから。
オデュッセイア小説新潮(2001年1月号)の新世紀新年号ために書かれた。
図書室の海この短編集のための書下ろし。『六番目の小夜子』の番外編。
ノスタルジアSFマガジン(1995年8月号)の女性作家ホラー特集のために書かれた。


恩田陸 黒と茶の幻想 BLACK&TAN
初版10.Dec.'01/講談社/装幀:北見 隆、デザイン:京極夏彦 with FISCO/'02年読
恩田陸の立ち読み
利枝子、節子、彰彦、蒔生は学生時代の同級生。それぞれに家や仕事を抱えるこの四人が、卒業から十数年の時を経て、ひょんなことから旅をすることになる。旅のテーマは『非日常』。推理小説好きの彰彦の提案で『安楽椅子探偵紀行』と称して「過去を遡ってみつけた『美しい謎』を解きあかす」という趣向だった。もしかすると……利枝子は疑心に駆られる……これは罠なのだろうか?この仕組まれた『非日常』そのもが?
九州の秘境Y島の特異な自然を背景に、高所恐怖症、紫陽花、9の字の机、表札泥棒、源氏香・・・と過去から現在から摘みとられた謎解きが交錯しながら進んでいく中、四人それぞれの胸に刻みつけられた「あの夜」の謎が浮かび上がってくる。それぞれの心理描写、心を開いていく過程の描写が、そしてなにより恩田氏の紡ぎだす言葉の数々が素晴らしい。

恩田陸 月の裏側
初版31.Mar.'00/幻冬舎/装画=藤田新策/装幀=鈴木成一デザイン室
「ポンツーン」'9810月号〜'9910月号掲載を加筆、修正したもの/'00年読
恩田陸の立ち読み
九州の水郷の町で老女の失踪事件が続いた。が、彼女たちは失踪中の記憶だけを失たまま、じきにひょっこり戻ってきた。だけど、なにかがおかしい・・・
久々に恩田陸風奇妙な世界を堪能。舞台になる水郷の町、箭納倉(やなくら)は柳川(福岡)と倉敷(岡山)をイメージしたものだろう。水に取り囲まれた小さな水郷は、恩田氏の手にかかると無気味で、ぞわぞわと静かな恐怖がゆらめく世界へと変貌する。これは怖い!面白い!

恩田陸 六番目の小夜子
初版20.Aug.'98/新潮社/装画=サイコ オカダ/装幀=新潮社装幀室
恩田陸の立ち読み
その高校に過去十数年にわたり伝わる奇妙なゲーム・・・それは三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が見えざる手によって選ばれるのだ。そして、「六番目のサヨコ」が誕生するはずの今年、津村小夜子とい美しい転校生がやってきた。
偶然、誤解、憶測、閉ざされた学校という世界で右往左往する生徒たちが生み出すものは、新しい形の迷信か。始まりはいつも些細なことだ。そして終わりは………。爽やかだが、けっこう怖い。

恩田陸 三月は深き紅の淵を:短編集
<待っている人々 出雲夜想曲 虹と雲と鳥と 回転木馬>
初版7.Jul.'97/講談社/装幀:北見 隆、デザイン:京極夏彦 with FISCO
恩田陸の立ち読み
屋敷内のどこかにあるはずのその本は10年以上探しても見つからない稀覯本、たった1人にたった1晩だけ貸すことが許された本・・・タイトルは「三月は深き紅の淵を」
一冊の本を巡る四つの話が、本の中身として、また本を巡る外側の話として展開していく。独特の空気感と凝ったストーリー展開が本を巡る旅を誘う。実際にこの本はとても美しく、装幀と各章ごとの挿し絵がすばらしく雰囲気を盛りたてている。ふと見てみると、デザインはなんと京極氏!!! 妙なところでも嬉しくなったオススメの一冊。


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