ボビー・ガーフィールドの父親ランダルは、二十代で早くも髪の毛が薄くなりはじめ、四十五歳には完全に禿げあがっているタイプの男だった。しかしランダルがそこまで追いこまれることはなかった一一というのも、三十六歳の若さで心臓発作を起こして世を去ったからだ。不動産業者だったランダルは、赤の他人の家のキッチンの床に横たわって末期の息を吸うことになった。この家の購入を検討中だった客が、通じていない電話で救急車を呼ぼうと無駄な努力をしているあいだに、ボビーの父親は息絶えた。これがボビー三歳のときのこと。ひとりの男からよく体をくすぐられ、そのあとほっぺたおでこにキスをされたという、ぼんやりした記憶があるにはあり、その男こそ自分の父さんにちがいない、とボビーは思っていた。ランダル・ガーフィールドの墓石には《惜しまれつつ去る》という墓碑銘が刻まれていたが、母親には父親の逝去を惜しんでいる風情はまったくなかったし、ボビー当人についていうなら……だいたい、ろくに覚えていない男の死を惜しめるだろうか? |
「あしたになれば、どこかの子どもが通りかかって、グローブを拾っていく一一そうとわかってるんでしょう?」キャロルは笑い声をあげて、目もとをぬぐった。
「そうなるかもしれないな」ボビーはうなずいた。「それとも、ふっと消えてしまうかもしれない。どこから来たのかは知らないけれど、またそこにもどっていくんだよ」
さいごまで残っていた薄紅の陽射しが翳って灰色になるのにあわせて、キャロルはボビーの肩に頭をもたせかけた。ボビーは、その肩を抱いた。ふたりはそのまま無言ですわっていた。ふたりの足元ラジオで、プラターズが歌いはじめた。 |