こんにちわ、我が敬愛なる紳士淑女の皆さま。ようこそ。
ようこそ、私どものショーへ。
これからの二日間、お腹がいっぱいになるまでさまざまなスリルを味わっていただこうと存じます。大勢のイリュージョニスト、マジシャン、手品師たちが入れ替わり立ち替わり舞台に登場しては皆さまに魔法をかけ、皆さまの心を奪うことでありましょう。
最初にご覧に入れますのは、どなたさまもきっと名前は耳にされたことがあるはずのマジシャン一一かのハリー・フーディニーが得意とした演目でございます。フーディニーは諸国の王族やアメリカ合衆国の大統領の前でマジックを披露した、ひょっとしたら世界一の、少なくともアメリカ一の脱出王でありました。フーディニーの脱出マジックは非常に難度の高いものばかり、彼の突然の死から長い年月が経過した現在に至るまで、ただ一人のマジシャンも挑戦したことのない演し物がいくつもあるほどでございます。
さてさて、本日これからお目にかけますのは、そのフーディニーが窒息の危険を冒して演じましたマジック、その名も“手持ち無沙汰の絞首刑執行人”でございます。
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修理に出せば〈カマロ〉のボディーの四分の一は新品と交換になるだろうし、どのみち再塗装が必要だ。この際、別の色に塗り直そう。とっさに、燃えるような赤にしようと決めた。その色には二重の意味がこめられていた一一高馬力車は赤であるべきだというのが父の口癖だっただけでなく、ライムのスポーティーな愛車〈ストーム・アロー〉の車椅子ともおそろいの色になる。犯罪学者はそんな女心をまるで解さないふりをするだろうが、内心では小躍りして喜ぶに違いない。
そうだ、それがいい。赤にしよう。
この足で工場に預けに行こうという気になりかけたが、思い直し、先に延ばすことにした。あと数日、このひしゃげた車を乗り回すのも悪くない。十代のころは、そんなことはしょっちゅうだった。いまはただ家に帰りたかった。リンカーン・ライムのもとに帰りたかった。彼女のバッジを銀から金へと変えた錬金術師のニュースを彼と分かち合うために一一そして二人を待つ困難な謎を解き明かすために。殺された二人の外交官、よその土地から持ち込まれた植物、ぬかるんだ地面に遺された奇妙きわまりない跡、そして持ち去られた靴二つ。
そのどちらも右足のものだった。 |