海と空と針槐 > ご近所瓦版 > 海辺に佇む美しき廃虚(4/6) 魚雷発射試験所跡  
   

 

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魚雷収蔵施設の窓

美しき廃虚

トロッコの溝を辿りながら、ちょっと重い気分で魚雷収蔵施設跡へと向かった。屋根は落ちてしまっているが頑丈そうな建物。廃虚という言葉がぴったりはまる建物だ。
建物に隣接してプールのように深く大きな凹みがあった。そこにびっしりと魚雷が並んだ光景がふと頭に浮かび、再度ゾッとした。次の瞬間、プールを覆うように繁った木々の間から一斉に鳥たちの鳴き声が響いてきた。ヒヨドリ、スズメ、あれはシジュウカラ?いろんな野鳥たちが木々を飛び交い、その声がここは安全だよと告げていた。
魚雷収蔵施設跡を覗き込むと、青い空の下になんだか不思議な空間が広がっていた。戦争とは程遠い感覚が、じわじわと私の中に広がってきた。なんて美しい場所!!!

魚雷収蔵施設

 

魚雷収蔵施設正面の壁木々と野鳥と青空と
建物にもしも性格があるならば、ここは「潔く凛とした」場所だと思う。そう、まるで軍服に身を包んだ青年将校のように、背筋を伸ばして顎を引いているような……。
その佇まいに魅了され、声もなく魚雷収蔵施設跡の中を歩いてみる。
魚雷収蔵施設と木々 屋根は青空だ。ぐるりと周りを囲む壁は崩れかけてはいるものの、窓のひとつひとつが景色を取り込んで、まるで絵でも架けられているようだ。たぶん人の手を離れてから芽吹いただろう木々が伸び伸びと腕を伸ばし、空に向かっている。あちこちから迷い込む風が枝々を揺らし、鳥のさえずりと翼の羽ばたく音が壁に響く。なんて賑やかな静けさ。まるで天然のバードケージの中に迷い込んでしまったような気分だった。流れ過ぎたはるかな時の中で、自然がゆっくりと癒してきた場所・・・忘れ去られることで浄化されてきた場所なのかもしれない。

 

まさに秘密の庭秘密の庭を作ったのは?
足元に雑草が繁っていないのは、たまに手入れにやってくるお年寄りたちの心遣いの賜物だろう。池を作ったような一角もあり、周囲には明らかに石の配置に合わせて植え付けられたと思われる植物たちが機嫌よく育っていた。
朽ちていく壁日陰になる部分には苔が体よく育っているし、見回してみると、元から作られた庭のように見える場所もある。秘密の要塞に隠された秘密の庭だ。
お年寄りたちがここに石を据えたり庭を作るとは思えないし、偶然の産物とも思えない。とすれば元から作られていたということになり、つまりは植物を愛でる人たちが戦争の最中にも水をやり、手入れをしていたのかもしれない・・・私はそんな自分のイメージを素直に受け止めた。自然とひとつになって木々や鳥たちを育んでいるとてもやさしいなにかが、そこには確かに在った。


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