海と空と針槐 > ご近所瓦版 > 海辺に佇む美しき廃虚(3/6) 魚雷発射試験所跡  
   

 

魚雷発射試験場の監視塔海を見据えたふたつの塔

魚雷発射試験場の監視塔天井海へ張り出した堤防の先端に建っている魚雷発射監視所跡は発射試験と監視をしていた場所で、沖合いの小さな島に向けて魚雷の発射試験をしていたという。かつてはふたつの塔が並んで建てられていたが、海中に張り出した場所では風雨ばかりでなく波による侵蝕もひどく、ひとつは土台ごと崩れ落ちてしまっている。
残った塔の損傷もひどい。割れ目やひび割れからのぞく基礎のレンガの赤が痛々しく、今も訪れる度に崩れ落ちている。堤防のコンクリートのあちこちにも大きな亀裂や陥没がある。写真右は塔の内部を下から見上げたもの

 

魚雷発射試験場と釣り人釣り客には人気のスポット

魚雷の発射試験を目的として選ばれた場所なので、この辺りは水深が深く、釣り好きさんには隠れた穴場として人気が高いそうだ。驚いたことに、戦争遺跡としてではなく、釣りのポイントとして雑誌で紹介されることがよくあるそうで、地元だけでなく、遠くからやって来る人も多いと聞いた。
トロッコのレール跡 人気の元は釣果だけではないだろう。座っているだけで気持ちの良い場所なのだ。南側を見ればいつも穏やかな大村湾が広がっている。西には大崎半島の豊かな緑や海辺の遊歩道、大きく口を開けた洞くつなどが見える。北側にはちいさな漁港がある。ずっと座って、いつまでもぼんやりできる場所なのだ。
なのに、こんなに美しい場所であるにも関わらず、釣り人はゴミを残していく・・・悲しいことだ。


傷痕のようなトロッコのレール跡

海に張り出した堤防の上を歩いていると、傷跡のように深く刻まれた溝が「魚雷収蔵施設 」から伸びている。魚雷を運搬したトロッコのレール跡だ。遠い昔、今と同じように静かで穏やかだったろう大村湾の一角のこの美しい場所で、トロッコに乗せられた魚雷が運ばれた道、それを見守る軍人が歩いた道・・・思わず鳥肌が立つ。やはりここは戦争の遺跡なのだ。
恐ろしいのは魚雷ではない。恐ろしいのはそれを作らねばならなかったこと、それを使わねばならなかったこと。そしてなによりも、それが正しいことだと思わねばならなかったことだ。そんな戦争が今も地球上では続いている。


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