刑事を続けていると、自分が追っているはずの犯人に、ふと、そこはかとない恐怖心を抱くことがある。
たいていの場合、それは相手の姿が見えないからだ。姿がないのに、足跡だけが残っている。追っても追っても姿をみつけることができない。ただ、足跡だけが増えていく。正体を暴けば何の変哲もない、ただのチンピラなのかもしれない。しかし、闇夜が人の心に化け物を見せるように、姿の見えない犯人は刑事の心の中でいつしか怪人と化していく。
ときには捜査の中でその怪人の気配を感じることもある。じっとこちらを窺っているような暗い眼差しが溶け込んだ空気……それを感じ、刑事は立ち尽くす。あたりを見回すが、やはり怪人の姿は見えない。
神奈川県警の警視、史島文彦にとって、そんな畏怖にも似た感情を抱いた最初の相手は、数年前に出会った[ワシ]だった。
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ラストは読んでのお楽しみ!
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