■死ぬかと思った ■罠にはまった ■胸にこたえた ■腹がよじれた ■寝るかと思った

雫井脩介の書庫


トップセラー

2000年に第四回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』でデビュー。まだ作品数は少ないが、読者をぐいぐいとストーリーに引き込んでいく力強さを感じる。/8.Jan.2006

涙を飲んで選ぶオススメの一冊
虚貌

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犯人に告ぐ
双葉社/初版20Jul.'04/『小説推理』連載に加筆、訂正して単行本化
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かつて幼児誘拐殺人事件の責任を一身に負わされ、記者会見場で記者相手に切れてしまい左遷された神奈川県警の警視・巻島は、再び特別捜査官として混迷する連続児童殺人事件の捜査を指揮することになる。しかも、その捜査方法は、メディアと手を組んで犯人に呼びかけるという史上初の劇場型捜査だった。
「犯人よ、今夜は震えて眠れ」・・・ちょっとぉ、カッコ良過ぎるよぉ〜と思わず声が出た。かつて「ヤングマン」と渾名され、のちに「プッツン刑事」と揶揄された巻島だが、これがクールにしてダンディー、内なる顔は傷つきやすく思索に富んでいる。その他の登場人物も味わい深いキャラから一癖も二癖もあるキャラ、「結構いるんだよなぁ、こんな奴」と呟かせるキャラまで、一人一人がこれまた良い。逆に、曖昧模糊とした犯人像が、「姿の見えない犯人」が巻島の中で「怪人」と化していく過程を、そして巻島が一気に反撃に出るクライマックスを、さらにさらに効果的に引き立てている。
再読でさえ一気に読まずにはいられない展開と深みのあるストーリー。2005年本屋大賞にもノミネートされている。


火の粉(ひのこ)
幻冬舎/初版10.Feb.'03
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裁判官の職を退官した梶間勲の自宅の隣に、武内が越してきた。武内はかつて梶間が無罪判決を下した男であった。裁判での検察の指摘は、武内は幼い六歳の子供を含む一家三人を惨殺し、自分自身も暴行を受けた被害者のごとく偽装していたというものであった。しかし、検察の組み立てた武内真犯人説は決め手に欠け、空白の時間という謎も残り、梶間は無罪と判決したのだった。
先祖代々から相続した資産家であり、穏やかで善意に溢れた数々の武内の好意が、徐々に梶間家の人々の心を掴んでいく。そんな中、梶間はあまりにもでき過ぎた偶然を思う。偶然・・・それとも故意か?故意だとすれば、近付く理由などどこにあるのか……?そして、梶間は再び事件を調べはじめた。
隣人の顔さえ知らないといった生活形態が増える現代にあって、面白いテーマを選んだものだと感心。人が人を裁く裁判官という職務についても、改めて考えさせられた。いろんな人間がいるという点について、人間の様々な性格については、同様に深く考えさせられた。人とのつながり、そして家族・・・成りゆきは見えているのに、ぐいと掴まえられて逃げられない一冊。やっぱり、人間が一番コワイ!

虚貌(きょぼう) 上下巻
幻冬舎文庫/初版15.Apr.'03
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運送会社社長宅が襲われ夫婦は惨殺、長女は半身不髄、長男は大火傷を負った。犯人たちはまもなく自首し、事件は終わったかに見えた。それから二十一年、主犯と裁かれ刑期を終えた男の出所後、加害者たちが次々と惨殺された。癌に蝕まれゆく老刑事と自らの頬の痣に根深いコンプレックスを抱えた若手刑事が事件を追う・・・
犯人もトリックも上巻を読み終える前には容易に推理できる。トリックについては賛否両論が大きく別れているようだ。アイデアとしては面白く、実際的にはちょっと難があるかなぁという感じ。それでも最後まで一挙読みさせる勢いがあり、「貌(かお)」と「心」のつながりというテーマを軸に組み立てられた物語自体が、じつに面白い。これが2作め!?・・・と驚いた。
ルパンが片隅に顔を出して、ちょっとしたヒントになっているかも……。


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