白川 道の立ち読み


天国への階段 本棚に戻る
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昨夜半から降りはじめた豪雨は昼の一時を過ぎたころになってようやく小雨に取って代わった。
その降りしきる小雨のなかのパドックを十八頭の馬たちが周回を重ねている。
力強く後肢を踏み込み絶好の仕上がり具合を示す馬、場内の熱気と興奮とで明らかにイレ込み状態にある馬、首を上下させながら秘めた闘志をむき出しにしている馬一一。
しかしどの馬からも、この晴れ舞台に登場するのが持って生まれた自分の血の当然の帰結とでもいう品格と自信とが感じられる。
桑田は横断歩道を渡って向い側に立ち、あらためて白い十五階建ての高層ビルに目をやった。
ビルの壁面の「第五柏木ビル」のロゴが、あたかも光り輝くものがすべて一一だといわんばかりにネオンの明かりを受けて燦然と輝いている。
タクシーに手をあげたとき、一陣の強い風が桑田の頬をなでるように吹き抜けた。風の匂いは、すでに春を十分に感じさせた。
夏の光はもうそこまで来ている。
タクシーをやり過ごし、声に出してつぶやくと桑田はあてもなくひとの波に身体をあずけた。