乙一の立ち読み


平面いぬ。 本棚に戻る
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石ノ目
昔々、ある村で風邪がふいた。医療の知識はなく、村人は無抵抗に死を受け入れた。
働き手を失い、途方にくれる者。自分以外の家族を皆失った者。
そして、まだ幼い子供を失ったある夫婦。彼らは冷たくなった子供をむしろに寝かせ、一昼夜の間、悲嘆にくれた。貧しい時代、ろくに食べ物はなく、子供の腕は木の枝さながらに細かった。彼らは子供を小さな棺に入れ、見晴らしのいい場所に埋葬してやりたいと思い、二人で棺を抱えて山を登る。

はじめ
待ち合わせの時間に少し遅れて、木園が喫茶店へ入ってきた。木園と会うのはひさしぶりだったので、妙に気恥ずかしかった。
「もうすぐはじめの一周忌だ。花束でも買って、あいつが死んだ場所へ行こうじゃないか」
友人の木園淳男から電話があったのは、一週間前のことだ。

LU
買ったばかりのぬいぐるみの材料を小脇に抱え、ケリーは雨宿りのつもりでその店へ入った。看板は出ていなかったが、店内を見るかぎりどうやら骨董屋のようだ。そうでなかったら、町のがらくたを置いておくための倉庫かなにかだろう。

いぬ。
わたしは腕に犬を飼っている。
新潮cmくらいの、青い毛並みの犬だ。名前はポッキー。オス。彼はハンサムではないが、愛くるしい顔立ちをしており、口に白い花をくわえている。


夏と花火と私の死体 本棚に戻る
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九歳で、夏だった。
神様を祭ったお宮には濃い緑色の木々が生い茂り、砂利の地面に日陰を落とす。夏の太陽を掴もうとするかのように伸びた枝の間から蝉の叫び声が降ってくる。
「おにいちゃんたち、まだ話し合ってるのかなあ。五月ちゃんはどう思う?」
みんな青白い顔をしているけれど、わたしはそれでもみんなと楽しく遊んでいます。
わたしと、その誘拐されてここに連れられてきたお友達の歌う『かごめかごめ』の歌は、工場の倉庫に荒涼と、寂しく響いてゆくのでありました。
優子
その日、家の門に辿り着いた政義の見たものは優子の炎に包まれた姿でした。政義は叫び声をあげながら優子に駆け寄って炎を消しましたが、すでに何もかも遅かったのです。
政義は泣き続けました。すまない……
お父さん、今日は暖かい日ね。家に帰ったらあの人の洗濯物を干さなくてはいけないね。
しかし、人形がなかなか語りかけてくれないので清音は首を傾げた。
少し寂しかった。

暗いところで待ち合わせ 本棚に戻る
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本間ミチルが視力の異変を最初に感じたのは、三年前、病院の待合室でのことだった。それまで頻繁に病院を利用していたわけではなかったので、やけに蛍光灯が薄暗いのはいつものことなのか、それとも弱っている蛍光灯を取り替えていないだけなのか、わからなかった。
近くのベンチに座っている子供連れの女性は、ごく普通に雑誌を読んでいた。それを見てはじめて、蛍光灯ではなく、自分の目がおかしいのだと気づいた。
近いうちに、ほとんど目が見えなくなるでしょうと、医者に宣告された。
・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・