その島は古名を夜叉島と言う。
九州北西部に位置する変哲もない島で、「夜叉」と一見禍々しい名も、島にある火山を夜叉だけと称したことに因んでいるにすぎない。火山を鬼神に喩えることは決して珍しいことではないし、そこには懼ればかりではなく、畏敬の念もまた含まれている。事実、この夜叉岳は古来、近辺を航海する海上民からは尊崇を受けていた。航行標識の未整備だった時代においては、海上に勃然として聳える標高四百メートルの山は恰好の目標物だったからである。
だが、その名も地図の上から消えて久しい。島が消失したわけでは、勿論ない。時代の趨勢に従って無害で凡庸な名に書き換えられてしまったのである。 |
・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・ |