奥田秀朗の立ち読み


邪魔 本棚に戻る
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深夜の繁華街に二サイクル・エンジンの甲高い音が響いている。
マフラーを外した排気音は左右の建物に反射して、まるでステレオのように渡辺祐輔の鼓膜を震わせた。
うしろからはパトカーが追いかけてくる。赤色灯が辺りを間欠的に照らし、ちらりと横を向いた洋平の頬を赤く染めていた。
サイレンは鳴っていない。鳴らせばいいのにと祐輔は思った。そのほうが注目が集まる。通行人はまばらだが、道ばたのあちこちには若い女たちがしゃがみ込んでいる。あの女たちにもっとアピールしたかった。
テレビのニュースで、男が連行されるのを見た。頭からジャンパーを被っていた。女の方はまだつかまっていないらしい。
けれど新聞を読まないので詳しいことは知らない。
「おい、腹減ったな」洋平がため息混じりに言った。
「ああ、減ったな」祐輔もため息が出た。
「でも、金ねえしな」「ああ」
二人でまた盛り場をうろついた。長い影が頼りなげに揺れている。
見上げると、日が半分ほど沈み、薄暮の空に星が瞬いていた。