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片足というハンデを抱えながら
数々の試練を乗り越えてきたC3PO
頼みの綱は負けん気で元気いっぱいのその姿

いよいよ最終章へ突入……か!?
 

エピソード7:リリースまでの遠い遠い一歩


●8月1日(火) 曇のち雨(61日め)悩みのタネはもぐらとピオ

涼しい一日。あちこちにピオの尾羽に関する質問や相談のメールを送ったあと庭に出た。窮屈な苗箱で健気に育ってきたスピノーザ(切り花用巨大唐辛子)を定植するため、ハーブ並木の除草をし、並木の向うの草薮の草刈りをした。ハーブ並木は長いので半分でダウン。細長い庭を延々と走り抜けているもぐらの穴をつぶし、土を均して苗を定植。根からも出る辛味成分をもぐらが嫌うという話だが、針槐庭の逞しいもぐら達にどこまで通用するか実験である。問題は成分を出すようになるまでの期間。根付くまではこまめに見回らなければ、苗ごと土から放り出されるハメになる。
部屋に帰ると、ピオはこの頃気に入っているクロゼットの中の段ボールの上にいた。箱の縁に止まるのでなく、何故か開いたままの不安定な蓋の上を選んで止まるのは何故だろう?風通しも良いから風に揺れる木々の枝に似ているのかもしれない。
RITZが部屋にいるとピオはずっとマックの上で遊び、お腹が空くと口を開ける。RITZがいなくなるとアワダマを食べたり他の部屋に冒険に出かけたりする。なのでしばらくは放任していようと決めたのだが、帰ってきたあとの甘え様を思うとこれもまた問題か……。。でも、ずいぶんと力強く飛ぶようになった気がする。尾羽もないのに……。


●8月2日(水) 晴時々曇時々雨…(62日め)C3POの部品交換

久しぶりに陽が差して、暑くなったなぁと思うと雨。涼しさに誘われて、不安定な天気の合間を縫って今日も生き残ったポット苗を定植して回った。あちこち除草してスペースを空け、スターフラワー2株、ドワーフコットン3株、エリキャンペーン6株、チコリ7株、一株だけ生き残った巨大ピーマンとバナナペパーもダメモトで植え付けた。
ピオがいる寝室の横の花壇に八百屋で買ってきた無農薬の根付きバジルをこれまたダメモトで植えていると、ピオが怖がって大騒ぎ。呼んでみると元気よくチーッと返事をするのだが、RITZの姿が見えると逃げ惑う。もしかして・・・顔や身体は認識できないのかな??? これ以上尾羽を失くされても困るので作業の間はできるだけ気配を殺してモソモソと動き、脅えないように呼び声だけを発していたところ、RITZの真上の網戸に止まって、今度は探している様子。下を見れば声の主がいるというのに・・・どうなってるのだか?
ピオの尾羽については朗報があった。抜いてやると新しい尾羽がすぐに生えてくるということ。でも、血止めだの痛がるから少しづつだのと少々物騒な話。それでも将来的に良いのなら、いや、無理に抜くのはなぁ〜と悩んでいると新情報。。引っ張るとすぐに抜けることがあるという話も聞けた。さすが雀の学校!と感謝感謝。明日、早速試してみることにしよう!


●8月3日(木) 雨のち曇(63日め)追っかけっこ

雨上がりの涼しい風の中、今日は寝室前のハーブガーデンで伸びに伸びたメキシカン、ボック、メドゥーのセージ類を刈り込んだ。急に視界が開けたのでピオは大騒ぎ。ちょっと怖かったのか、寝ている時以外近付かないGONZOがたまたま部屋にいたところ、側を離れなかったらしい。ほんのちょっとした環境の変化にも敏感に反応するようだ。これからは気をつけてあげないと。。発芽して10cmに育ったアニスヒソップを植え付け、作業終了。
夕方、なんとかピオを捕まえたものの、手乗りに育てていないので(ただし鼻にはとまりたがる妙なヤツ)触られるのも掴まれるのも大嫌いなピオはじたばた大暴れ。翼を怪我させるのではないかと心配で強くはつかめず、すぐにするりと逃げられる。三度めの正直でようやく尾羽引っぱりに成功。追っかけっこの所要時間2時間。尾羽は抜けるどころかしっかりとくっついているようだ。痛いめに合わせたくなくて、片足での生活に長い尾は邪魔になったのでは……などと考えてしまう。やはり病院で診てもらうことにしよう。


●8月4日(金) 晴(64日め)ついにリリース!

長い追っかけっこの末、なんとか餌で釣ってピオを鳥かごの中へ。天井をはずした鳥かごでいつも遊んではいたものの、天井をつけて閉じ込められるとさすがに大騒ぎ。大きな布をかぶせシートベルトで固定して病院へ。車中でもジタバタと騒ぎっぱなし。久しぶりにピオを見た先生は「あのハゲチャビンがよく育ったね〜」と一言。事情を話して診てもらった。鳥かごの中のピオは不安気に暴れていたが、RITZが人指し指をカゴの隙間から差し入れると指に寄り添って静かになった。
栄養不良やストレスから自分の羽根を自分でを噛み切ってしまう鳥が多いという話だったが、ピオはよく太っている上に放し飼いなので、尾羽が折れたのはやはり網戸やいろんなところで擦るのが原因だろうということ。片足で動くので、どうしても尾羽を支えに使うことが多いということだった。。これじゃ当分は飛べないねと先生が言うので、バリバリ飛んでるし、ちゃんと止まり木で寝てると答えると、片足のハンデも尾羽根が切れたのも翼の力で補っているんだろうと言われた。羽ばたく力があるのなら敢えて人間が手を加えることをせず、自然に任せようと話はまとまった。いずれは換羽期を迎えるのだ。出血やその後の炎症などの心配もなく、痛い思いをさせることもなくなった。。一安心。。。
もうひとつ、使えない右足の太もも辺りが赤くなって気になっていたのだが、これもいろんなもので擦って羽がなくなっているとのこと。先々炎症を起こす可能性は否めないが、今のところは問題なし。足を切って鳥かごで育てるよりは、このまま大空に放したいと思う。ピオに口が利けたら、きっとピオもそっちを選ぶと思う。
家に帰ってひとしきり逆襲されたあと、GONZOとこれからのことを相談した。天気予報を調べると当分は晴れた日が続く。台風の頃には外に慣れているように、一日でも早いリリースを……と話はすぐにまとまった。明日か、明後日か。
……とは言うものの、なかなか気持ちの踏ん切りがつかず、庭に出てバジルの苗を定植などして過ごした。S.W.DANIレモン、レモン、ライム、シナモン、どのバジルも成長を楽しみに種を蒔き、忙しい仕事の合間に移植をして、ディーディーやピオ最優先になった日々の中で、ポットのわずかな土の中で、それでもなんとか育ってきた苗ばかり。これからでもなんとか育っていくだろう。ピオもこのバジル達と同じように、スタートがちょっと遅れただけのこと。空に帰って自力で自分の生を生きていくのだ。そして私も庭守に戻るだけのことなのだ。私も勇気を出さなければ。。。


●8月5日(土) 晴(65日め)でも、あと一日だけ……

朝、ピオのモーニングつっ突きコールでいつものように目覚めた。外は晴天。久々の庭仕事の疲れが出たのか、このまま今日という一日をずるずるとやり過ごしてしまいたいだけなのか、身体が重く起き上がれない。ベッドの上ではピオがちまちまと動き回り、足の指と格闘したり、臑を突ついたり、お次はGONZOの足へと今朝も元気いっぱいのやんちゃ振り。うとうとして目覚めるといきなり顔のホクロをつっ突いてきた。
ダースベーダー・グッチも起きてきて仲間に入りたそうだが、ここしばらくの急襲作戦が功を奏して、ピオはすごい勢いでクロゼットに逃げ込んだ。一羽と一匹に餌をやり、またベッドでごろごろ本を読んでいるとピオが飛んできて、足をつっ突いて遊び始めた。一緒にいると甘えてばかりなので、ここしばらくは庭にばかり出ていた。モソモソ起き上がったGONZOに「あと一日だけ……」と哀願し、残る今日一日はべったりピオと過ごすことにした。

午後、ピオは二度の水浴びを楽しんだ後、ほとんどの時間をベッドで本を読んで過ごすRITZの足下や枕元で遊んでいた。本の栞にぶら下がり、一緒にお菓子を食べ、一緒にだらしなく居眠りなどしながら過ごした。
夜、マックの電源を入れると珍しく起きてきて、捕まえようとしても寝惚けていて逃げない。飛び始めて以来、自分から甘えてすり寄ることはあっても、手で包み込まれるのをとても嫌っていたのに……。彼らには、なんらかの予感めいたものを感じ取る力があるのではないか・・・とよく思う。
今夜限りと胸の辺りで抱いているとピオはすぐに眠り始めた。ディーディーの世話に追われて、抱いてやることは少なかった。久しぶりの感触だった。掌の中のピオは飛んだり遊んだりしている時に比べるととても小さく感じられ、なんとなく不安な気になってくる。でも、片足のハンデを乗り越え、尾羽が折れても水浴びで全身びしょ濡れになってもしっかり飛び回る頑張り屋のピオ、逞しく生き抜いていくと信じよう。いよいよ、明日はリリース。ゆっくりお休み、ピオ。


●8月6日(日) 晴(66日め)頑張れ、ピオ!

本日晴天、リリース日和。いつものようにベッドの上でしばらく遊んだあと、たらふく餌を食べさせ、水浴びも済ませ、部屋中の窓を開け放った。クロゼットに逃げ込んだピオを部屋に出すとはじめは怖がって、空いている窓の前ではホバリングを繰り返した。大きく口を開けて興奮ぎみのピオは、それでも窓から少しづつ出るようになった。思い切ってピオを捕まえ、テラスに三歩程出てみると、RITZの掌から飛び立ったピオは窓の辺りを少し飛んでから、一気に空高く舞い上がり竹林の中へ飛んでいった。午前10時ちょうど、ちょっとぎこちないが頑張り屋のピオらしい旅立ちだった。GONZOとRITZは顔を見合わせ、思いっきりの拍手で見送った。ちょんの字が手助けしてくれることを願いながら。。
30分くらい後、寝室横のハーブガーデンにピオが帰ってきた。貧弱な尾羽ですぐにそれとわかった。もう……!?と戸惑っている間に4羽のすずめが遠巻きにピオを追っかけてきた。追われてるのか……と立ち上がったRITZを見るなりすずめ達は慌てて近くの木の上に逃げ出したが、なんとピオはそのあとを追っかけた!!!
木の上から竹林へと飛び回るすずめたちに、ピオはちや〜んと付いて行った。「すごいぞ、ピオ!諦めずに追っかけるんだよ」「ずっと、ずっと、追っか続けるんだよ〜!」と心の中で叫びながら、ピオは大丈夫だ!と確信みたいなものを感じた。 ちいさなピオの中で確実に育っていた物凄いエネルギー、野生の力を目の当たりに見たような気がする。赤むけのヒナから、ここまでよく育ってくれたと思う。頑張って良かったと思う。思い切って空に返して、本当に良かったと思う。あとはピオの無事を祈るだけ。右足が炎症を起こしませんように!換羽期には立派な尾羽が生えてきますように!元気に生き抜いていってくれますように!そして、ここに戻ってくるようなことにはなりませんように!ピオ、頑張るんだぞ!

ピオの今後の情報は「闘う猫車」の方で続けていきます。

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