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2000年6の月、やたら物騒で悲しいニュースに溢れた世紀末の地球の片隅
そのまた片隅の針槐庭に、またまた宙から墜ちてきた二羽の裸んぼすずめ
名付けて"C3PO & R2D2"

同志“ちょんの字”はなんとか大空に戻れたけれど
C3PO&R2D2 はどちらも足を負傷している
それでもすこぶる元気いっぱい、食欲も旺盛

お友達になろうよ〜!と近付くダースベーダー・グッチを相手に
今回はどんな騒動が持ち上がるのか……!?
ヨーダ・RITZは二羽を宙へ帰すことができるのか……!?

C3PO & R2D2、勇気を持ってちょんの字を目指すのだ!!!
 

エピソード1:いつか飛べる日を夢見て


●6月2日(金) 曇(1日め)が〜〜〜んとご〜〜〜ん

明日からは雨の予報。ようやくラベンダーの庭造りを終わり、刈りためた草を焼いていたのだが、ついでにテラスのスズメの団地から落ちて積もったワラ屑も燃やそうと思い立った。やろうやろうと思いながらもずっと放りっぱなしだったので、ずいぶんたまってテラスの床に貼り付いていた。帚で剥ぎ取りながら掃除していると、ワラ屑の山の中でなにやら蠢くものが・・・
が〜〜〜ん!!! ついに、落ちてきた!しかも、まだ眼も開いていない赤いムキ身の裸ん坊。弱っているのかどうかさえわからない。GONZOと相談してとりあえず親鳥の様子を見ることになり、床に残ったワラ屑を集めてヒナを入れた。ヒナ発見に慌ててひっくり返していたゴミの袋を拾い上げようと床を見ると、ヒナがもぅ一羽ひっくり返って死んでいた。
このところ、三日続けて卵が落ちて割れていたり、割れないまま転がっていたり、落巣ヒナの死骸を見つけたりと続いていただけに、どうしてこんなことになるのかと悲しい気分で見ていたら・・・動いたー。が〜〜〜ん!!! 一度に二羽も!? 慌てて臨時の巣へ運んだ。。
テラスのスズメの巣は巻き込んだ日除けテントの奥に作っているので、手を入れることができない。でも、なんとか親に返せないものか、なにか方法はないものか、あんな赤むけのヒナでは手に負えない……と思い悩みながら枯れ草を焼いた後、道具類を片付けていると足が何かを踏んだ。なに……!?と振り返ると同時に、なにかが私に襲いかかった。ご〜〜〜ん☆
なんと壁に立て掛けたレーキの刃を踏んでしまい、反動でレーキの取っ手が私のおでこを襲って来たのだった。なんというマヌケな光景。おでこをおさえながらテラスに戻ると、親鳥は寄って来ないとGONZO。そろそろ日も暮れるし、夜には雨の予報。猫に蛇、寒さ、飢え。ふ化したばかりのヒナはこのままでは死ぬしかないと判断した。 かくして、ちょんの字2号、3号が我が家に仲間入り・・・触れるのもおぞましい赤むけしわしわの裸ん坊だ。連想するのは中華街の店先に並んだ肉の塊。だが、勇気を奮って掌に乗せると、私は一気にちょんの字の母に戻っていた。

ヒナはどちらも体長5cm、手羽の直径およそ1.5cm、尾羽根5mm。握った拳の中に収まって余るくらいちっこい。羽毛はかすかに見える程度で裸んぼ状態。背中はモヒカン刈りそのもの。眼はまだ開いていない。一体、卵から孵って何日めなのだか???
一羽はかろうじて元気なようだが、もう一羽はぐったり。保護してすぐに念のために作っておいた茹で卵の黄身を裏ごしして、蜂蜜と練って臨時の餌を作った。久々のことなので、餌やりがなかなか上手くいかなかったが、なんとか餌袋がパンパンになるまで食べさせた。ダースベーダー・グッチ愛用のアンカで保温した箱の中で、触っても気付かないくらい熟睡している。かなり寝相が悪いのは、少しは元気になった証拠ではないのか?いや、暑いのか?苦しいのか?・・・ネットで調べてもこんな幼いヒナに関する情報はなかった。まずは体当たりで手を尽くすだけ。元気になることだけ考えよう。


●6月3日(土) 雨(2日め)幸運だらけ

6時に起きて見てみると、上向いてるのと横向いてるのと、死んだように寝ていてぎょっとした。少し小さめで弱っている方は昨日よりはたくさん食べることができたが、首の状態がおかしい。逆に元気だった方は昨日の食欲が見られない。
午後、近くの犬猫病院に連れて行って診てもらったが、あまりに小さすぎてどこがどう悪いのかもわからないということで、しばらく様子を見ることにした。去年は医者で嫌な思いをしたものだが、最近越してきた獣医さんのところへ行ってみるととてもやさしく、すずめもたくさん育てたそうだ。ひと安心。裸んぼ2羽は早くも慣れたのか、お医者さんの掌ではイヤイヤ、ヨーダ・RITZの掌ではすぐに眠りはじめた。。

夕方、菊の字が早速捕獲してきたアオムシを与えると、どちらも威勢よく食べた。こんなにちっちゃいうちからすごい食いっぷりだと妙に感心。針槐庭特産の無農薬アオムシは今年もヒナの味方だ。防虫の手抜きが幸運に繋がったか・・・そういえば、去年ちょんの字を育てた時にアオムシ捕獲木として頑張ったマロウ、今年は5本も植え付けている。虫の知らせ、ならぬスズメの知らせだったのか?
考えてみるとテラスの掃除をもっと前にしていれば裸んぼたちは助からなかっただろう。一日遅れていても、これも雨で助からない。なぜ昨日突然思い付いたのか・・・なんだか不思議な気がする。


●6月4日(日) 雨時々曇り(3日め)子連れ農婦……!?

ヨーダ・RITZのたんこぶは見事に腫れ上がり、裸んぼたちは元気になった。お目めぱっちり開いて、ちいさな声だが鳴くようになった。一羽は上手に餌を食べるようになったけど、なにしろチビ。怪我がひどい様子のヒナは首が上手く持ち上げられず、タイミングよく口を開けられない。でも食欲は旺盛なので今のところ安心だ。
それにしても、餌を食べさせるのに2羽で30分、それから1時間置いてまた餌の時間。これに猫の餌と人の餌を入れると、一日中食べさせてば〜っかり。。庭のスケジュールは遅れっぱなしだと言うのに、ヨーダ・RITZはなんにもできない。本格的な梅雨に入る前に片付けておきたいことは山ほどあるのだが……やむなし。。
午後、裸んぼ2羽引き連れて唐辛子の移植をした。と言っても、箱に入れたヒナを作業場近くの室内に置いていたのだが、土作りをして苗を移植、水を遣って手を洗い、餌をやって巣の掃除・・・延々とこれを繰り返すこと3時間。我ながら気が長いものだと呆れた。しかし、ちょんの字の時と比べると、庭仕事ができるってのは二度目の余裕というところか。

夜、晩酌をしながらGONZOと裸んぼたちの名前を考えた。
「ちょんの字のあとは二の字、三の字だよね?まとめて二三(兄さん)なんて呼ぶのは変だよねぇ」
「田舎っぺスズメだから大字小字じゃないか?」
「おおあざ、こあざ〜?」
と、笑い転げながら遊んでしまった。清水のジロちょんと森の石まちゅん、お染・久松、花子と一郎、果てはハンプティーダンプティー、レノンとヨーコ、ミックとキース(Rolling Stones)、etc。結局、また明日、素面の頭で考えようと就寝。


●6月5日(月) 雨時々曇り(4日め)命名:C3PO & R2D2

本日、宇宙規模の元気と力を願ってC3PO & R2D2と命名(STAR・WARSより)。
ほんの少し大きくなって怪我の状態が良くわかるようになってきたので、病院に連れて行った。治療が施せる訳ではないのだが、せめて炎症を抑える塗り薬でもあればと出かけてみた。思った通り治療などできず、このまま育てるという結論だったが、おおよその状態がわかっただけでも良しとしよう。
C3PO(通称ピオ)は右足関節の筋が炎症を起こしているらしい。でも、痛がる様子もなく元気満々で好奇心旺盛。巣箱から出すと首を思いっきり伸ばして世間を眺める。早くも飛ぶ練習を始めたが、まばらな翼を拡げるとむき出しの素肌が丸見えで、筋張った首を伸ばしきって羽ばたく様はなんともみすぼらしいものである。餌をねだる声に巣箱のタオルをとると、大きな口を開けるようになった。
R2D2(通称ディーディー)は左足関節が折れているとのこと。怪我は痛そうで、左足を使おうとしない。結果として首にも力が入らないから、いつもクテッと寝そべっているとのこと。でも、消化器系が強いのか、すごくたくさん食べれるようだ。甘えんぼで、お腹一杯になるととろんとした眼でジーッと見つめてくれる。せめて、左足にものを掴める力が残っていることを願おう。
どちらも日ごとにぐんぐん成長していて、体長は6cmを越えるようで、尾羽根も1cm近くになった。翼は「もしかして翼?」という程度になった。どちらも日ごとにぐんぐん成長していて、体長は6cmを越えるようで、尾羽根も1cm近くになった。翼は「もしかして翼?」という程度になった。アオムシが早くも不足してきて、今日からメジロ用の練り餌に魚糞とボレー粉を粉末にして混ぜる。頑張れ、裸んぼ!!!


●6月6日 (火) 晴(5日め)よき隣人

小さかったC3POがついに R2D2に並んだ。おハゲ丸出しの飛行練習も過熱してきて、今日は掌から落っこちてしまったが怪我はなし(どっと汗が出た)。しかしめげずに、居眠りをし始めるまで練習をさせる。昨夕頃からウンチが成鳥に近く、小さめになってきた。その分回数が増えるし巣を汚すことにもなる。大変ではあるが、順調な成長の証だ。
R2D2は相変わらずだが、餌をねだる仕種だけでもするようになってきたのは大きな進歩だ。何度か羽ばたきもしてみるが、まだ痛いのか積極的ではない。ウンチは相変わらずぽってりとでかい。でも、巣から出すとすぐにやってくれるし、幼鳥のウンチは膜で被われたようでべたっとくっつかずに取りやすい。動かない分だけ成長が遅いのだろうが、よく見るとC3POより太っている。ちょっと安心。
どちらも食欲は旺盛で、アオムシも葉巻き虫も底を尽いた。しばらく練り餌にして、蝶々たちの活躍を願おう・・・と思っていたら、今回もお隣からドでかいアオムシの差し入れ。ふと思い立って調べてみたら、去年も6日目にアオムシを届けてくれたのだった。感謝。。しかし・・・あまりにもデカイ。固唾を飲みながら震える手でアオムシをぶつ切りにし、裸んぼたちに食べさせる。裸んぼたちは大喜び、私は地獄へ落ちるかも……(号泣)。
夕方近く、裸んぼを玄関間に連れて行き、ちょいと庭仕事。。これは自分自身へのご褒美タイムである。


●6月7日 (水) 晴(6日め)一見すずめに成長!

餌をやりながらつくづくと眺めてみると、翼がずいぶん立派に見える。尾羽根もぐんと伸びて、背中のモヒカンも凛々しく見える。「一見スズメ!」の出来上がり!測ってみると体長は7cmを越え、ちょうどちょんの字を保護した時位の大きさだ。特にC3POの翼や尾羽根の成長はめざましい。やはり動かす程に逞しくなるのだと実感。一週間以内には飛べるようになるかもしれない。骨や筋肉が丈夫になるのに、今が大切な時期なのかもしれない……と今日からは庭仕事断念を決意。。
裸んぼたちは仕事机の横にいるので、寝ている間にたまった仕事を片付ける。1時間くらいで鳴き始めるので、たっぷりと食べさせ飛行練習をさせる。疲れて居眠りを始めたら巣に戻し、仕事に戻る。仕事はあまりはかどらないが、仕方がない。
巣箱の中ではC3POの羽ばたきが激しくなり、覗いてみるとR2D2はひっくり返って上を向いている。やむなくR2D2はTシャツのお腹の辺りに滑り込ませた。しばらく私を見たり羽ばたいたりしたあと熟睡。寝相が悪いのか、足が痛いのか判別しにくい。仰向けで足を突き出した見事な寝姿だ。野生なのに、微かなイビキまで……。そう、この寝姿から映画「STAR・WARS」のひっくり返ったR2D2を連想してしまったのが命名のきっかけだったのだ。
一方、C3POの羽ばたきは力強くなって、今日は両手の間に2cmほどの段差を付け、右から左、また右へと跳び移る(実際には滑っているだけ……)練習をさせた。結構スパルタである。R2D2にも休憩を多くして羽ばたきの練習をさせていたところ、夕方頃からしきりに羽ばたきはじめ、徐々に羽ばたきのスピードも出てきた。左の爪にも弱いながらも力が残っているような気がした。感動!!!じきにC3POの真似をして手から手へと滑りはじめた。見ていたのか……と不思議な思いで眺めた。ふと、ちょんの字がGONZOの足のつま先で羽ばたき練習をしていたのを思い出し、ちらりと涙。
いや、猫の手も借りたいこの時期にセンチになってる時間はない。猫……ダーズベーダー・グッチは今だ気付かず安心だが、はぁ〜、一人に2羽は荷が重い。今回は私の手並みを見たGONZOが「一人でも大丈夫そうだ」と手を引いたのだ。内心はこの子たちの悲惨な状態が見ていられないのかもしれないとも思う。


●6月8日 (木) 曇のち雨(7日め)いけない遊び……!?

どちらも元気に羽ばたくようになったのは良いが、ヨーダ・RITZの掌を滑って遊ぶ方に夢中になってしまい、なかなか食べることに集中してくれなくなった。土砂降りで唯一旺盛な食欲をそそるアオムシも捕れず、練り餌に振り向きもしないその顔を見ていると、黄色いへの字のくちばしが「不味い!」とでも言っているように見えてくる。いけない遊びを教えてしまったのだろうか……。ふと思い付いてバナナを与えてみたところ、ようやく静かに口に入れてくれた。お気に召したらしくとても満足そうな表情。。。
たった一日で二羽の体長の差が目立って来た。並べてみると小さかったC3POはR2D2より大きく、翼も尾羽根も伸びが早い。でも、太っているのはR2D2。ちまちま食べる分だけ量が入るのだろう。人間と同じだ。一気食いは避けよう。。。
気になるのは二羽が時々睨み合って、威嚇し合うこと。巣の中で離れて寝ていることもある。兄弟かどうかはわからないし、野生の生き物だから兄弟でもそういうことがあるのかもしれない。これは調べる必要あり。もうひとつはC3PO の足。掌の上ではしっかり掴むし元気に羽ばたくが、床に下ろしてみると片足が使えない様子。。どちらの足も早く治ってくると良いのに。。。


●6月11日 (日) 曇(10日め)哀しい巣立ち

8日め:空からイオーク(RITZのすずめ仲間)が助っ人にやってきた。空港への往復で帰りが遅くなり、ちび共は腹ぺこ。C3POは大きな口を開けて催促しながら上手に食べるようになったが、R2D2は身体のバランスが取れず口を開け続けていられない。この日はイオークがヒナたちの逃走を防いでくれるので、ゆっくりたっぷり餌をやることができた。それでも夕方にはC3POが遁走し、ベッドの下に入り込んで大騒ぎとなる。。それにしても、片足にしては見事な走りっぷりだった。。。
ちび共は飽きずに掌からの飛翔を試みていたが、身投げにしか見えない有り様。暇さえあればアオムシ捜索に出かけるイオークのおかげで、チビ共は久々のアオムシにご満悦。RITZは素手で平然とアオムシをとるイオークを尊敬の眼差しで眺めていた。

9日め:イオークのヒナ守のおかげで余裕の撮影会ができた。ちび共はまるでカメラを怖がらず、逆に興味津々でつっ突いてくる始末。R2D2の方が気が強く、C3POは思いのほかちょっと臆病なところがある。
体つきもしっかりしてきてちょこまか飛び回るようになったが、怪我をしないかとハラハラドキドキ。案の定、C3POは足を傷めたらしく心配だ。アオムシはついに底を尽きたか、イオークの必死の捜索にもかかわらず、収穫は4匹だけだった。

10日め:イオークが帰り、再びてんやわんやのヒナ育ての日々が始まった。一羽に餌を与えている間にもう一羽が身投げ、逃走を繰り返す。午後遅く、ついにC3POが3mほど飛び、日暮れ頃にはR2D2も2mをなんとか飛んだ。10日めにしてついに巣立ちだ!・・・と喜びたいところだが、問題は山盛り。。
C3POは平地で走る跳ぶはできるものの、私の指に止まることができない。
R2D2は逆で、私の指に止まる爪にはしっかり力があるものの、平地に下ろすとひっくり返ってばかりで動けない。起き上がろうとするとぐるぐると同じところを回ってしまう。巣箱の中ではC3POにもたれて、かろうじて逆さにならずにすんでいる。元気だったちょんの字に比べると、なんだか哀しい巣立ちだった。

つづく

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