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RITZの闘う猫車

登場する仲間たち


あっという間に12月。歳を重ねるごとに月日の流れが加速するような気がして、妙に年寄りじみた気分になってしまう時がある。そんな時にはじっくりと、過ぎ去ったたくさんの日々を思い出してみる。あんなことがあった、こんなこともあった…。やはりたっぷりと中身の詰まった11ヶ月であることに安心する。楽しい日々だったからこそあっという間に過ぎていくのだろうと満足する。
一日一日がなんらかの形で満足すべきものでないと気がすまない私は、とても欲張りなのだと思う。でも、些細な出来事に大喜びできる私は幸せなのだと思う。せめて心が老け込まないように、頑張るぞ!と張り切る12月の始まり。



●12月1日(水) 晴/世界一幸せなサラダ
 撮影用のサラダは「美味しそ〜」「きれい!」という歓声を浴びながら撮影用のテーブルに並んだ。野菜が萎れないように間接照明を施され、時折スプレーで水をかけたり、茹でたカボチャやじゃがいもにかかった水を拭き取ったり、ドレッシングをそっとかき混ぜたりと、一枚撮るごとにきめ細やかなサービスを受ける私のサラダ。プロの仕事ぶりに惚れ惚れしながら、世界一幸せなサラダだ!などと思った。
 スタジオは照明器具やパネル、大小の三脚と、足の踏み場もないほどに雑多なもので溢れている。棚の上には食器類からアクセサリー、工芸品、生花とありとあらゆるものが積んであり、ドラエモンのポケットのように足りないものはなんでも出てくる。どんな職種にしろ、プロの仕事場というのは好奇心を掻き立てられる。


●12月2日(木) 晴/宇宙船にいる気分…!?
 今日は麻痺した左手の検査で病院へ。2時間近く、ビリビリ電気の検査やチクチクとあちこちに針を刺され、いじくり回されてヘトヘトの私にドクターが「次はMRI検査」と言った途端、私の中で好奇心がビリッと反応した。検査室の周りには「強力磁場発生中」などとゾクゾクする文字があちこちに見え、ロッカーのロックシステムなどで遊んでいるとすぐに名前を呼ばれ、私は映画でしか見たことのないMRIの中へ。
 頭をしっかり固定されてMRIの中へ送り込まれていく時、何故か突然宇宙船のイメージが浮かんで眼をきょろきょろさせ、叱られた。MRIの中はダダダ、ゴンゴン、グワーンと凄い騒音だったが、宇宙船の中はかくや…と、楽しい経験をした。明日には結果がわかるらしいが、頭の中が空っぽでないことを祈ろう。。


●12月3日(金) 晴/自分の脳味噌を覗く…
 病院で昨日の検査結果のフィルムを見せてもらった。縦切り、横切りの自分の頭の輪切りがずらずら、ぞろぞろと並んだものを眺めるというのも不思議な気分だ。ここが鼻、これが眼と、医者の説明を聞いている時、何故か、突如として「イイダコ」を思い出してしまった。。
 結果は異常無し、頭骸骨美人という褒め言葉にも気を良くして、車の運転中に鼻歌など歌い出す始末。買いものをして帰ろうと寄り道したら、今日に限ってイイダコがずらりと大売り出し中。さすがに買う気にはならなかった。、楽しい経験をした。明日には結果がわかるらしいが、頭の中が空っぽでないことを祈ろう。。


●12月6日(月) 雨時々晴/今日もゴキゲン!
 手首が麻痺してから今日で24日め。人間は慣れる生き物だと言うが、本当に不自由さにもだんだん慣れてくるものだ。指先に徐々に力が戻ってきたこともあって、お風呂で右手が洗えないくらい。あとはほとんどの事ができる。昨夜は久々にシチューなど作ってみた。
 ただ一つ悲しいことは、庭に出られないこと。一旦出ていくと、あれもこれもとやってしまうことが眼に見えているので、散歩と写真を撮るくらいしかさせてもらえない。。今日はダンナがいないので少しだけ草むしりでも…と目論んでいたのだが、外は降ったり晴れたりの妙な天気。しかも寒い。。無念…。
 今日は首と肩のMRI検査を受け、当分続く注射を一本。優しくてきれいな看護婦さんが、毎日通うのだからと注射針を細いものに変えてくれたのでちっとも痛くない。食欲はあるかと聞かれて、「バリバリ」と答えたら、痩せの大食いで元気な人の細胞は人並みはずれて活発なのだと教えてくれた。そんなわけで今日もゴキゲン。るんるん。


●12月8日(水) 雨時々晴/きゃーーー。
 今日の看護婦さんは新米だったのか、何かに動揺していたのか、それともただ下手だったのか…。「あら〜?」「あらあら」「いや〜ん」「ごめんなさ〜い」と非常に痛い注射をうってくれた。なんだか静脈注射が筋肉注射になってしまったようで、2時間近く腕が痛くてたまらなかった。。うぅ、もぅヤダ…とめげて家に帰ると、お友達からお見舞いが届いていた。。
 手作りのパッチワークの壁掛けにはクリスマスツリーの絵が、それに素敵なマフラーも。嬉しくて一気にゴキゲンモード。明日からは綺麗なマフラーを巻いて通院しようと、単純な私には強力な励ましになった。


●12月13日(月) 晴のち曇り/新シェフの御自慢料理!
 土曜、日曜と家に篭って、朝から晩までテレビの前に転がって映画三昧。二日間で9本という凄いペースだったが、食べたり飲んだり居眠りしたりと、丸一日パジャマのままで過ごすだらしなく心地よい一日はずいぶん久しぶりのこと。しかも、食事の用意も後片付けも全てダンナ任せという、結婚後初の女王様気分。。まさに怪我の光明である。
 ただし、わが家の新シェフの御自慢はインスタント・ア・ラ・カルト。それでもだんだん美味しいサラダやパスタも作れるようにはなってきた。このまま一気にお料理好きの休日シェフになってくれれば…という私の目論見を知ってか知らずか、新シェフは何故か台所磨きの方がお気に入りの様子である。いずれにしろ、感謝。感謝。。


●12月14日(火) 快晴/外庭禁止令は解除成るか???
 久々のポカポカ陽気。今夜こそは流星群が見えるのでは…などと眩しい空を仰いでいると、久々に私の姿をみつけて庭仕事の師匠兼剪定師(お隣さん)がやってきた。奥さんも私の手の怪我をとても親身に心配してくれていて、時々具合を聞きに来て下さる。師匠はひとしきり私の手の診察をした後、「無理せんように」と言い残し、帰っていった。
 それから数分後、再びやってきた師匠の手には“ビタミンレタス”の苗が5株。。ニコニコ顔で「そろそろリハビリした方が良かよ」と…。奥さんも言っていたが、私の姿が庭にないと、とても淋しいらしい。嬉しそうな師匠のしわくちゃの笑顔を見ていると、そろそろ庭に復帰する頃かなぁという気になってくる。“ビタミンレタス”は元気いっぱいで、早く植えて!と呼び掛けているように見えた。さて、外庭禁止令は解除成るか???


●12月15日(水) 快晴/嘘だろ〜〜〜!?
 去年の秋、たっぷり増えた水仙の球根を近くの道路脇に植えた。でも、その後に道路工事があって、春にたくさんの花を咲かせた水仙はアスファルトの下に埋もれてしまった。
 先日、ふと見ると水仙があった部分のアスファルトが盛り上がって、なんとそこから水仙が芽を出しているのをみつけた。道路の端っこなので、そこだけアスファルトが薄かったのかもしれないが、それにしてもあんな固いものを持ち上げて芽吹くなんて、なんとも物凄い生命力だ。ギリシャ神話などで語られる水仙の楚々としたはかない物語を思い浮かべ、「嘘だろ〜!?」とつい声が出たものだった。
 逞しい水仙はそろそろ花の時期を迎え、今では私に勇気を与え、元気を分けてくれる。


●12月16日(木) 快晴/ついに外庭禁止令解除!
 およそ一ヶ月ぶりに庭仕事をした。土を耕すのは諦めて、植え場所の周囲に生ゴミ堆肥を植え込み、畝を作って、隣の師匠にいただいたビタミンレタスを植え込んだ。ビタミンレタスはレタスとサラダ菜のハーフなのだとか。ちっちゃな苗は草丈4cm程度だが、春には50cm位に育つ。毎日葉っぱをちぎって使っても、次から次と葉が出てくるし、なによりも美味くてダンナも大好物。。外庭禁止令が解除されたのも、一つにはあの美味しさのお陰だと思う。今日はポカポカ陽気で、ほんの1時間くらいだったが、大いに楽しんだ。明日が待ち遠しい。


●12月17日(金) 雨のち曇り/ついに外庭禁止令解除!
 病院へ毎日の注射に通い始めてから二週間、そろそろ顔なじみになって数人の看護婦さんはよく話しかけてくるようになった。私が行く時間帯の神経内科外来には看護婦が一人の事が多く、痛みから気を逸らせるためでもあるのだろうが、短い時間に世間話から愚痴までいろんな話を聞く。
 今日の看護婦さんは7、8人いる中でも一番笑顔のやさしい人。いつものようにふんふんと聞いているうちに、彼女の姉の乳癌の話になった。転移がひどくてもう半年も持たないと泣き笑いで語る彼女に、私は言葉のかけようもなかった。まだ誰にも話せないと息を詰まらせる彼女は、全くの他人である私だからこそ話せたのかもしれない。「お大事に」という声と笑顔が胸に染みた。
 当り前、当然だと思っている一人一人の健康、いつも無理ばかりさせてしまう身体を、もっともっと感謝しなければと、改めて思った。


●12月18日(土) 雨/わが家流野鳥観察
 朝、静かにダンナの伝令が走る。そして、ダンナは仕事部屋から、私は寝室から、菊の字はリビングから、それぞれがじっと身動きせずに見守る中、芝生の上ではちいさなハクセキレイが一羽、何かをついばみながらちょこまかと歩き回っていた。じっとしているのが苦手な菊の字がドタドタ歩き始めるまでの、ほんの10分間の出来事だった。


●12月19日(日) 雨/クリスマス・イヴと言えば…
 今日はついにY2K対策の買い出しヘ。久々に歩く町はまさにクリスマス! 赤、緑、金色の様々なディスプレイに、ようやく年の暮を実感した。クリスマス・イヴはわが家にとっては大事な日、グッチ婆さんのお誕生日。イヴの夜に拾ったみすぼらしい子猫は波瀾の人生を経て、間もなく18才にならんとしている。この頃は食いボケ、便秘、深夜の徘徊に加え、毛が焦げるほどストーブに近付くようになって増々目が離せなくなったが、食欲も旺盛で元気に年を越してくれそうだ。


●12月20日(月) 雪/雪の中のちょんの字
 朝起きるとふうわりと真っ白な雪が積もっていた。長崎では雪が積もるのは年に二、三度の事。寒さも気にならず庭へ飛び出す。とは言え、この冬一番の冷え込みで、空気は肌を刺すように冷えきっている。重く垂れ込めた雲の下、海の向こうの外海町辺りの山がまだらな雪に覆われているのがとても美しい。カメラを取ってきて写真を数枚撮るうちにくしゃみの5連発。諦めて家に入り、ストーブを窓辺に引き寄せて雪見を洒落こんだ。
 だけど、去年までのように単純に喜ぶことはできなくなった。この寒さの中、ちょんの字やおチビさんの事が気になってしょうがない。寒さに縮こまっているのか、それとも初めての雪にびっくりしてキョトキョトしてるのかもしれない。テラスのすずめの団地からも、いつもの騒々しい鳴き声が聞こえて来ない。冬はまだ始まったばかりだ。昼前に雪は解けてしまい、夕方を過ぎてもはらはらと降り続いてはいるが、積もる様子はない。今夜も寒くなりそうだ。


●12月22日(水) 晴/綺麗な箱の謎
 一ヶ月ほど前からリビングのカウンターの上に綺麗な箱があった。菊の字、今度は何を備蓄しているのだろうとほくそ笑んでいた。今日、ちょっとした探し物の最中、ふと箱を開けてみると…菊の字が郵便受けから持ってきた未開封の封書や葉書がどっさり…。。。なんてこった! と次々に封を開けていく。来ないなぁと思っていた請求書、正月の同窓会の通知、懐かしい友からの手紙、そして恐怖の一通が!!!
 私のサイトのプロバイダーOCNから、都合により現サービスを停止する為24日までに新部門にデータを全て移して下さいとの通知。。OCNの方でやりますよというサービスの通知他、サービス御優待などの通知も来ていたが、時既に遅し。大慌てで引っ越しをする羽目になった。で、夕方過ぎになんとか引っ越し完了。。後で聞いたところによると、今後郵便物はそこに入れることに決めたのだと。ただ、その事を私らに告げるのを忘れていたのだとか!? あっはっは〜と笑っていた。


●12月24日(金) 雨のち暴風雨/おめでとう!グッチ婆さん
 今日はクリスマス・イヴ、グッチ婆さんの誕生日。イヴの雪の夜、凍えて死にかけていたあの日、小さなグッチは私の両掌にすっぽり隠れるくらいだった。それが中年の全盛期には7kg近い巨体になり、今では縮んで4kg。五年前に癌で死にかけたが、奇跡的に回復したのはまだ心の準備ができてなくて取り乱すばかりの私を置いて行けなかったのではないかと、今でも思う。
 晴れて18歳になったグッチ婆さん、プレゼントの電気アンカが気に入ったらしく、一日大好きなカゴの中でアンカを抱いて寝ている。今日も食欲旺盛、誕生日ディナーのお刺身もぺろりと平らげ、寒さにも負けず十数歩のお散歩にも出かけた。便秘だけが悩みの種という幸せな誕生日であったと思う。


●12月31日(金) 快晴/正月飾りと汚れ福
 お隣の師匠が年末恒例の大きな松の枝を届けて下さった。早速隣の竹林で竹を切り、針槐流正月飾りを活け込んだ。そして今年も「できました?」とか「あ、やってる、やってる!」などとわいわい、御近所の方がたくさん見に来てくれた。いまや御近所でも評判の年中行事と化してきたような気もする。手が思うように動かないのでダンナを引っぱりだし大騒ぎだったが、まずまずの出来。
 あとはざっと掃除をして元旦を待つばかりだが、左手故障の為に大掃除を省いた事がやはりちょっと悔やまれる。でも、お隣の奥さんが「汚れ福ってのがいるのよ」と慰めて下さった。今年は「汚れ福」を待つ事にしよう。。いつまでもこのままプラス思考で歩いていこう…という思いの中、1999年もいよいよ終わろうとしている。


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