黒武洋の立ち読み


そして粛清の扉を 本棚に戻る
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人が、本当に肝に銘じるとは、どういう事なのでしょう?それは、決して安っぽく何回も口にしたり書いたりできる様な事ではないと思います。心底、心に強く刻み付ける事なんて、短い人生にそうそう有る事ではありません。文字通り一生一度、人生観を根底から覆す、その位の絶対的なものである筈です。私は、今、強烈にこれ迄の自分を恥じ、生きてきた自らの道筋を顧みて、自身の生き方は明らかに自分に正直ではなかった、絶対にこのままではいけないのだと肝に銘じています。
亜希ちゃん、何故、あなたなのでしょう?何故、日本中に数多く生きている若者達の中で、あなたなのでしょう?
救急車のなかで横になり乍ら、自分の思いを貫いたにも拘わらず、弦間は、底の見えない苦悩に沈み続けていた。万が一という思いが有ったとはいえ、結果的に有望な一人の班員の尊い命が失われてしまった。高崎孝樹班員に油断という落ち度があったにしても、その責任は、全面的に自分に有る。果てなき自責の念に駆られながら、一方で、弦間は自問し続けていた。
「……間違っていたのは誰だ?……社会か?……法律か?……加害者か?……遺族か?……一番間違っているのは誰だ?……」
そのい煩悶は、決して弦間に気絶することを許さなかった。