駐車場には、約束の時間より早めに着いた。
車を降りると、湿気を多く含んだ七月の濃い闇に包まれた。蒸し暑いせいか、闇が黒々と重く感じられる。
香取雅子は息苦しさを覚えて、星の出ていない夜空を見上げた。冷房の効いた車内で冷やされて乾いた皮膚が、たちまちねっとりと汗をかきはじめる。
新青梅街道から流れてくる排気ガスに混じって、揚げ物の油臭い匂いが微かに漂っていた。これから、雅子が出勤する弁当工場から来る匂いだ。
《帰りたい》 |
佐竹は虚ろな夢に生き、雅子は現実を隅から隅まで舐めて生きる。雅子は、自分の欲しかった自由は、佐竹の希求していたそれとは少し違っていたことに気付いた。
雅子はエレベーターのボタンを、力を込めて押した。
これから航空券を買うつもりだった。佐竹とも、ヨシエや弥生とも違う、自分だけの自由がどこかに絶対あるはずだった。背中でドアが閉まったのなら、新しいドアを見つけて開けるしかない。風の唸りにも似たエレベーターの昇って来る音が、すぐ側でしている。 |