ぼっけえ、きょうてえ
最初の数行 |
最後の数行 |
……妾の身の上を聞きたいじゃて?ますますもって、変わったお方じゃなぁ。しゃあけどますますええ夢は見られんなるよ。
妾の身の上やこ聞いたら、きょうてぇきょうてぇ夢を見りゃあせんじゃろうか。それでもええて?そんなら話そうか…… |
・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・ |
密告函 |
「岡山県下にては虎列刺(コレラ)病蔓延につき××村役場裏に密告函なるものを設けたり。近隣に擬似患者及び隠蔽患者あらばその名を投函すべし。尚この密告函は錠前付きにて投函せし者も匿名にてよしとすなり。……」和気××村役場 |
足元に長く伸びる弘三の影の横に、もう一体の影が伸びていた。艶かしいその女の影は弘三の影に覆い被さると、朗らかに笑った。その笑い声に合わせて、川の中の女もうっすらと微笑んだ一一。 |
あまぞわい |
そうか、キン坊も「あまぞわい」の話を聞きてえんか。まぁ、キン坊もじきに大きゅうなって漁に出るようになるけん、知っとかにゃあおぇんわな。 |
濁った蒼い水の彼方に、真っ黒な岩礁がある。あまぞわい。だが、そこには海女も尼もいない。そのそわいは、ユミのためのそわいなのだった一一。 |
依って件の如し |
鈍色の曇り空をそのまま映した貧しい水田と、その泥に塗れた百姓と牛。まとわりつくのは血を吸う虫ばかりだが、その虫も吸っているのは血ではなく泥だった。 |
黄昏時にはすでに涼しい風が吹く。落ちる影も濃い。竈に映る角の生えた兄は、ゆっくりと美味そうに牛の汁を啜った。鍋の中を静かにかき回すのは、白い袖から覗く痩せた母の手だった一一。 |